建設業が抱えるリスクをカバーする法人保険の種類と補償内容を解説

建設業は、他業種に比べると重大事故につながるリスクが高いところが特徴です。事故だけではなく自然災害などでも事業に損害が発生して、倒産に追い込まれてしまうこともあり得ます。

従業員や協力会社の命と生活を守る経営者の責任は、プレッシャーも大きく、普通の人が簡単にできることではないでしょう。

最悪な事態が起こっても事業を継続させるためには、建設業の経営者はリスクに備えて最適な法人保険を選ぶ必要があります。

最適な保険を選ぶためには、建設業にはどのようなリスクがあり、リスクに備えてどのような保険に加入しておけばよいか知っておきましょう。

今回紹介する建設業のリスクや法人保険の種類、補償内容を検討の参考にしてみてください。

備える目的別に以下の6つに分けて紹介していきます。

  1. 「従業員」のリスク
  2. 「経営者・役員」のリスク
  3. 「財物」のリスク
  4. 「利益減少」のリスク
  5. 「賠償・危機管理」のリスク
  6. 「その他」のリスク

目次

「従業員」のリスク

他の業種に比べて業務中に重大事故につながるリスクが高いため、経営者としてしっかりした補償プランを立てておくとよいでしょう。

労働災害による重大事故やケガを負うリスク

工事現場では足場が不安定だったり、高所で作業をおこなったりすることがあります。大きな資材や危険な道具を扱うことも多く、たくさんの人が作業に従事しています。

いくらベテランの従業員でも、また個人でいくら注意深く作業をしていても、事故に遭うリスクはつきものです。

ケガや死亡、後遺障害により従業員が業務を継続できなくなるリスクが考えられます。

以下は、従業員の労働災害によってケガを負うリスクの例です。

  • 足場板の撤去作業中にバランスを崩し落下
  • 機械に指を挟んだ
  • 資材が落下してきてケガをした
  • ショベルカーに作業員が挟まれた
  • 薬剤塗布作業中に薬剤を吸いこんで呼吸器系に障害が出た

<和歌山県内で起こった事故の事例>(※2020年3月2日の日高新報からの抜粋です。)

 日高川町山野地内の県道で29日昼、工事作業中に鋼材が倒れ、交通整理をしていた警備員の男性が下敷きになって死亡した。

 亡くなったのは、御坊市島の男性(80)。現場は三津ノ川公民館から南西約300メートルの県道御坊中津線で、御坊署の調べによると、午前11時40分ごろ、道路拡幅工事に伴う山の掘削で、防護壁に使っていた鋼材を重機で吊り上げて撤去する作業を行っていたところ、長さ約7メートル、幅0.3メートル、重さ1トン以上あるとみられる鋼材が倒れ、そばにいた男性が下敷きになった。

 日高広域消防隊が到着したとき、すでに男性は心肺停止の状態で、約1時間後に搬送先の病院で死亡が確認された。同署が事故の状況や原因を調べている。

(引用:日高新報「日高川で作業事故 警備員の男性死亡」

このような労働災害のほかに、従業員のリスクには病気やがんにより働けなくなることも想定されます。

「従業員」のリスクに必要な保険の種類と補償

従業員向けに必要な保険には、労働災害が起こったときの補償や福利厚生として病気や入院の補償ができる保険があります。

下記で紹介する「業務災害総合保険」と「労働災害総合保険」は似ていますが、違う点は政府の労災認定が必要かどうかです。

最近では、建設業者が海外へ出張したり駐在したりすることも多いので、海外で従業員にトラブルが起きた時にフォローできる保険もあります。

保険の種類補償内容
業務災害総合保険労災事故が発生した時の見舞金や入院補償、死亡補償が受け取れる保険。事業者の訴訟対策に弁護士費用や損害賠償責任の補償が付いている。労災認定を待たずに保険金を支払ってもらえる。
経営者・役員だけでなく、社員、パート・アルバイト、下請作業員、派遣社員を補償対象にできる。病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
労働災害総合保険従業員が労働災害が原因で死亡した場合・後遺障害を被った場合・休業しなければならなくなった場合に保険金が支払われる。
従業員の被った障害などに対して、損害賠償責任が経営者や役員に発生した場合も保険金が支払われる。
保険金の支払いには政府の労災認定が必要。
総合事業者保険業務災害、雇用リスク、賠償責任、財産に関する必要な補償が、組み合わせ自由にまとめて契約できる保険。
病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
海外旅行保険海外に長期滞在する駐在員や出張者向けの保険。急な病気やケガ、盗難への補償に加えて、日本語対応のコールセンターがあることでトラブルが起きた時に頼れる。

「経営者・役員」のリスク

経営者や役員に、もし万が一のことがあっても従業員やその家族の生活を守るため、事業継続できるよう備えておく必要があります。

経営者の突然の死亡や病気により経営が危うくなるリスク

経営者も人間なので、いつ何が起こるかわかりません。

病気や事故、トラブルなどにより突然働けなくなってしまうことがあります。経営者がこれまで通り働けなくなると、経営者の家族の生活だけではなく、会社の経営や継続が危うくなってしまいます。

以下は、経営者の死亡や病気により経営が危うくなるリスクの例です。

  • 経営者が事故に遭い、全治半年のケガにより通院が必要になった
  • 経営者ががんにより入院することになり、これまで通り働けなくなった

特に中小企業などでは、事業方針の決定や取引先とのやりとりまで、経営者個人の信用で持っているケースがあり、経営者は代えがたい存在です。

経営者の不在で会社が大きく傾いてしまうこともあり得るので、万が一に備えておくことが必要になります。

「経営者・役員」のリスクに必要な保険の種類と補償

経営者や役員に万が一のことがあると、企業経営を続けることが難しくなってしまうかもしれません。

経営者や役員向けの保険として、万が一の事態に備えられるものや訴訟・賠責リスクなどに備えられるものがあります。

保険の種類補償内容
業務災害総合保険労災事故が発生した時の見舞金や入院補償、死亡補償が受け取れる保険。事業者の訴訟対策に弁護士費用や損害賠償責任の補償が付いている。労災認定を待たずに保険金を支払ってもらえる。
経営者・役員だけでなく、社員、パート・アルバイト、下請作業員、派遣社員を補償対象にできる。病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
総合事業者保険業務災害、雇用リスク、賠償責任、財産に関する必要な補償が、組み合わせ自由にまとめて契約できる保険。
病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
マネジメントリスクプロテクション保険経営者や役員のあらゆる訴訟リスク(※1)の損害賠償金や争訟費用を補償する保険。

(※1)経営者や役員の訴訟リスクには、株主や解雇した従業員から訴えられることがあります。

例えば、解雇した従業員から「不当解雇」と訴えられ損害賠償を請求されるケースなどです。訴えられると弁護士費用や調査費用、裁判費用、和解金、損害賠償金などが必要になり、経営を圧迫する恐れがあります。

「財物」のリスク

建設業は高額な資材なども扱うので、所有物を守ることも考慮しておかなくてはなりません。

自然災害により建設現場や企業財産が損害を受けるリスク

災害大国である日本では、台風や大雨、火災、落雷、風災などの自然災害によって、建設現場や企業財産が損害を受けるリスクが非常に高いです。

以下は、工事の不備が原因で事故が発生するリスクの例です。

  • 建設現場が大雨による洪水で流された
  • 足場が台風で壊れた、飛ばされた
  • 事業者の建物や財産が落雷で火事になった

「財物」のリスクに必要な保険の種類と補償

自然災害などが原因で、建物や敷地に保管していた資材がダメになってしまったり、建設現場が損害を受けたりすると、事業再開までに時間がかかってしまうことがあります。

財産損害や利益損失を補償する保険に加入しておくことで、損害を受けても事業再開の目途をすぐに立てやすくなります。

事業再開までの期間を乗り切るには、銀行から借り入れることもできますが、そのお金はいずれは返さなければいけません。

一方、保険金が支払われたなら、返済の必要がないので安心して事業再開に専念できます。

保険の種類補償内容
総合事業者保険業務災害、雇用リスク、賠償責任、財産に関する必要な補償が、組み合わせ自由にまとめて契約できる保険。
病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
企業財産保険自然災害や盗難、事故によって、法人の持ち物(建物や設備)に損害が出た場合に保険金が支払われる。(商品や製品は対象外)
財物損害補償、利益損失補償、営業継続費用補償を受けられる保険。オプションで水災や地震による損害補償を付けられる。

「利益減少」のリスク

利益を確保できなければ、事業を継続することが難しくなります。借金が増えたり、倒産したりしないために備えておく必要があります。

緊急事態により売上や利益が減るリスク

2020年以降コロナウイルス蔓延の影響により、工事や建設を中止せざるをえなかった企業も多いのではないでしょうか。

以下の画像は、東京商工による2021年1月までの建設業のコロナ関連倒産件数を調査したものです。

建設業の倒産件数は、飲食業界とアパレル業界に続き3番目に多いということです。保険金から休業補償を得ていたら、倒産せずに済んだところもあったかもしれません。

(参照:TSR株式会社東京商工リサーチ「建設業のコロナ関連破たん、ジワリと増勢をたどる」

「利益減少」のリスクに必要な保険の種類と補償

事業が稼働できない期間が生じたことで、被った利益損失を補償する保険です。利益損失補償や休業補償を設定する場合は、決算書を基準に決定することになります。

保険の種類補償内容
総合事業者保険業務災害、雇用リスク、賠償責任、財産に関する必要な補償が、組み合わせ自由にまとめて契約できる保険。
病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
企業財産保険自然災害や盗難、事故によって、法人の持ち物(建物や設備)に損害が出た場合に保険金が支払われる。(商品や製品は対象外)
財物損害補償、利益損失補償、営業継続費用補償を受けられる保険。オプションで水災や地震による損害補償を付けられる。
事業賠償・費用総合保険国内賠償、海外賠償、生産物品質補償をまとめて契約できる保険。国内・海外賠償では、事故解決にかかる費用(争訟費用、被害者治療費など)、生産物品質補償ではリコールにかかる費用などを補償する。
事業ごとに異なる賠償リスクに合わせてプランを立てられる。

緊急事態に対応するためには、法人保険の検討と同時に「BCP(事業継続計画書)」を作成しておくことがおすすめです。

緊急事態を回避するためのBCPの策定については、こちらのページでご確認ください。

参考に当社のBCPも掲載しています。

「賠償・危機管理」リスク

賠償とは、従業員ではない第3者(他人)に損害を与えてしまうことです。建設業でも賠償責任を問われるケースや想定される危機管理のリスクは、近年では多様化してきています。

工事中に第3者や第3者の所有物に損害を与えるリスク

工事が原因で、従業員ではない第3者にケガをさせてしまったり、物を壊してしまったりするリスクです。

工事期間中に閉められない公共の施設などは、不特定多数の人の往来が多いため特に注意が必要です。

以下は、工事が原因で第3者に損害を与えるリスクの例です。

  • 地中に埋まっている水道管を壊してしまった
  • 現場の囲いが強風で飛び、子どもにケガを負わせた
  • クレーンが倒れ、近くに駐車してあった自動車を損壊してしまった

<和歌山県内で起こった事故の事例>(※2019年11月19日の産経新聞からの抜粋です。)

 19日午前8時20分ごろ、和歌山市十三番丁の12階建てビルの屋上から鉄パイプが落下し、下の道路を通行していた20代男性の頭部に当たった。男性は病院に運ばれたが、午後1時すぎ、死亡が確認された。

 和歌山県警和歌山西署などによると、鉄パイプは長さ約1.5メートル、太さ約4.5センチ、重さ約5キロ。事故当時、ビル屋上にあった看板の工事で使用していた足場を解体していたという。 県警は、業務上過失致死の疑いもあるとみて工事関係者から事故当時の状況を聴いている。

(引用:産経新聞「ビル工事現場の鉄パイプ落下、男性死亡 和歌山」

工事の不備が原因で完了後に事故が発生するリスク

工事が完了したら施工主に引き渡して終わりではありません。

工事完了後でも作業ミスが原因で他人にケガを負わせてしまったり、物を壊してしまったりした場合に、事業者が責任を問われることになります。

以下は、工事の不備が原因で事故が発生するリスクの例です。

  • 配管工事に不備があり、工事完了後に水漏れ事故が発生した
  • 外装工事に不備があり、はがれたタイルが落下し通行人にケガを負わせた
  • 電気工事の配線に不備があり、電気を使用した際にショートして家電が使用できなくなった

「賠償・危機管理」リスクに必要な保険の種類と補償

賠償・危機管理のリスクは、多様化してきています。建設業でも、個人情報漏洩保険やサイバー保険は他人事ではありません。

実はサイバー攻撃は中小企業ほど攻撃の対象になりやすく、受けた際のダメージは想像以上に大きなものになります。

個人情報漏洩も、従業員がうっかり違う取引先にメールを送ってしまったり、車上荒らしに遭いパソコンが盗まれてしまったりなどのちょっとした隙で発生します。

保険の種類補償内容
事業賠償・費用総合保険国内賠償、海外賠償、生産物品質補償をまとめて契約できる保険。国内・海外賠償では、事故解決にかかる費用(争訟費用、被害者治療費など)、生産物品質補償ではリコールにかかる費用などを補償する。
事業ごとに異なる賠償リスクに合わせてプランを立てられる。
総合事業者保険業務災害、雇用リスク、賠償責任、財産に関する必要な補償が、組み合わせ自由にまとめて契約できる保険。
病気や入院にも備えられるので、福利厚生の面でも心強い。
マネジメントリスクプロテクション保険経営者や役員のあらゆる訴訟リスクの損害賠償金や争訟費用を補償する保険。
環境汚染賠償責任保険建物の老朽化や工場タンクの破損が原因で汚染物質を拡散させてしまうなどの環境汚染により、第3者への賠償や汚染浄化費用を補償する保険。
個人情報漏洩保険個人情報の漏えいが起きたときに、対応を相談し実行するためにかかる費用や賠償金、争訟費用を補償する保険。
CyberEdge2.0サイバー攻撃による損害のリスク(個人情報漏えいのほか、なりすましによる不正利用、サービス停止など)をまとめて補償する保険。
賠償責任、危機管理対応費、臨時の対応費用、サイバー犯罪による損害などに保険金が支払われる。
事業総合賠償責任保険第3者への多様な賠償リスクを1年間まとめて補償する保険。
業務遂行・施設リスク、生産物・完成作業リスク、純粋財物使用不能リスク、人格権侵害・宣伝障害リスクを補償し、業種別に必要なリスクに合わせてプラン作りができる。

「その他」のリスク

「その他」のリスクでは、自動車と物資の輸送中などに発生する可能性のあるリスクを解説します。

自動車事故や輸送中の事故などのリスク

社有車があれば、事故や自然災害で使えなくなったり、第3者とトラブルになったりすることが考えられます。

最近では、事故対応のサービスが向上している自動車保険が増えています。

また、海外から資材を輸入することも多いので、輸送中に貨物が損壊したり盗まれたりするリスクにも注意が必要です。

「その他」のリスクに必要な保険の種類と補償

社有車のための自動車保険と、貨物の運送に関わる「外航貨物海上保険」をご紹介します。

外航貨物海上保険とは、国際間の海上や航空、陸上輸送中に起こるかもしれない貨物の危険を補償する保険です。

保険の種類補償内容
自動車保険社有車の事故リスクを補償する保険。事故対応やロードレスキューサービスなど安心の対応が付いている。
外航貨物海上保険海上輸送、航空輸送および陸上輸送を伴う貨物を海上危険、戦争危険、ストライキ危険から補償する保険。

建設業の賠償責任保険の保険料が決まる要素

賠償責任保険の保険料は、工事の要素によって変わります。

建設業者の無事故期間が長いと割引が適用されることがありますが、その反対に事故が多い会社だと保険料が割増になることや契約ができないこともあります。

以下は賠償責任保険の保険料が決まる要素です。

  • 工事の規模
  • 工事の期間
  • 作業の種類
  • 補償内容
  • 会社の業種
  • 会社の年間売上高
  • 支払できる限度額
  • 免責金額

まとめ

建設業の抱えるリスクとリスクを補償する保険を紹介してきました。

安心して事業運営に取り組むためには、リスクを想定し、必要な補償内容のある法人保険を選ぶ必要があります。

建設業の従業員の健康とその家族の生活を守り、会社を継続させるためにも、最適な法人保険を検討してみてください。

今回紹介した保険は一例で、依頼する保険会社によっては、同じ補償内容でも名称が異なることがあります。

詳細が気になった方や相談したい方は、代理店さんや営業窓口で確認いただくのがよいでしょう。