福利厚生で法人保険を活用するために必要な福利厚生規程の作り方

法的な義務はありませんが、福利厚生の目的で法人保険に加入した企業は「福利厚生規程」を用意しておく必要があります。

法人保険の福利厚生への活用は、役員や従業員に万が一の際の生活保障などを目的としたものです。

その多くは「企業が契約者」で「役員や従業員が被保険者」として加入します。

しかし、企業がよかれと思って実施している制度でも、まとまった額の保険金が動くときは、きちんとしたルール作りをしていないとトラブルの元になります。

こうしたトラブルを避けるために、福利厚生規程を作り労使間でルールを共有しておくことが必要です。

そこで今回は、福利厚生規程の必要性をお伝えしたうえで、作りかたのポイントと作成後にやらなければならないことをご紹介します。

目次

法人保険を福利厚生に活用するメリット

福利厚生とは、企業が従業員の健康や生活向上のために導入する社内向けサービスのようなものです。

法人保険を福利厚生に活用するメリットは以下になります。

  • 退職金準備に充てられる
  • 病気やケガに備えられる
  • 社会保険に上乗せした労働災害補償ができる

役員や従業員に万が一のことが起こった際、本人や家族の生活を保障するために備えることができます。

法人保険で備えておけば、まとまったお金が必要になっても会社の利益や準備金を取り崩す心配がありません。

こちらの記事で、法人保険を福利厚生に活用するメリットや活用できる保険を紹介しています。

法人保険を従業員の福利厚生に活用する目的やメリット、注意点を紹介

法人保険活用において福利厚生規程が必要な2つの理由

法人保険を福利厚生に活用する際、福利厚生規程が必要になる理由を2つご紹介します。

遺族とのトラブルを避けるため

万が一、被保険者である役員や従業員が死亡した際に、死亡退職金の受け取りを巡って遺族と企業の間でトラブルが起こる可能性があります。

企業が保険料を支払っている場合でも、保険金の受け取り手続きは遺族がおこないます。

この保険金を企業は「死亡退職金」と考えていても、遺族が「死亡保険金」と認識していると、遺族が死亡退職金の支払いを求めてトラブルになってしまうかもしれないのです。

もしも福利厚生規程がなく、遺族が受け取る保険金の名目が不確かな場合、死亡退職金として認められず二重に支払うことになりかねません。

福利厚生規程を作成し、支払われる保険金の名目と金額を明記しておくことで、トラブル防止につながります。

損金計上するための根拠になる

福利厚生を目的とした法人保険に加入する場合は、企業が負担する保険料を損金として計上することになります。

ここで損金計上の根拠になるのが、福利厚生規程の有無です。

もし税務署の調査が入った際に福利厚生規程がなければ、損金として全額認められない可能性があります。

また、福利厚生目的の法人保険を損金にするためには、全従業員に対して平等に提供されていることが前提です。

加入者に不平等性があると判断されると、福利厚生とは認められず損金扱いになりませんので注意してください。

ただし、アルバイトやパートの除外などは合理的な理由として認められています。

福利厚生規程に記載する項目と作り方を解説

ここからは、福利厚生規程を作るポイントと例文をご紹介しますが、保険の契約内容によって記載に必要な項目は変わります。

適宜項目を増やしたり減らしたりして、企業の制度に合わせた調整をおこなってください。

(1)目的

法人保険に加入することが、福利厚生目的であることを記載します。

<例文>

この規程は、●●株式会社の役員及び社員の死亡並びに病気またはケガにより高度障害状態になった場合に支給する弔慰金等について、必要な事項を定めるものである。

生命保険を付保することにより、当会社の役員および従業員への福利厚生を図ることを目的とする。

(2)保険の契約形態

保険会社の名称や加入する保険の内容、保険金の受取人が誰になるのか、保険料の支払いを誰がどの程度負担するのか、などを記載します。

特に受取人がはっきりしていないとトラブルになりやすいため、権利関係を明確にしておきましょう。

また、従業員に保険料負担が一部発生し賃金控除が必要になる場合、後述する賃金控除の協定が必要になります。

<例文>

会社は、●●生命保険会社との間で、●●を被保険者とする●●保険契約を締結し、保険料を負担するものとする。

契約者を会社、被保険者を●●とする。

死亡保険金受取人を役員・従業員の遺族とし、満期保険金受取人を会社とする。

なお、解約返戻金の請求権も契約者に帰属する。

(3)被保険者の範囲

被保険者に該当するものを記載します。

役員と正社員に限られ、パートやアルバイトが含まれない場合はその旨も記載しましょう。年齢や勤続年数による制限を設ける場合も同様です。

<例文>

保険に加入できる被保険者は、●●歳までの役員及び社員とする。

ただし、パート社員、契約社員、アルバイトおよび試用期間中の者は除くものとする。

(4)保険金額

保険金がおりるケースと支払われる金額を明記します。

<例文>

死亡保険金 ●●万円

見舞金 ●●万円

傷病による療養(●週間以上●ヶ月未満) ●●円

(5)事故発生時の扱い

支払われるまでの流れと、支払われるその保険金の名目が死亡退職金なのか死亡保険金なのか、はっきりわかるように記載します。

<例文>

支払事由が発生した場合の保険金に関して、保険会社から直接被保険者の遺族へ支払われる。

支払い事由に基づき支払われる死亡保険金は、当会社から被保険者の遺族へ支払われる退職金もしくは弔慰金に充当するものとする。

満期が到来した場合の満期保険金に関しては一旦会社が受け取り、退職金規定に従い所定金額(以下、所定金額)を支払うものとする。満期保険金と所定金額との差額については、会社が事業資金として使用できるものとする。

支払事由に該当した場合は、所定の様式により、所属長を経て総務部長宛に速やかに届け出るものとする。

(6)諸費用の請求

診断書が必要な場合など、保険金の請求手続きにかかる費用負担の有無や条件があれば明記しておくとよいでしょう。

<例文>

保険金請求をおこなう場合の手続きに要する費用は、被保険者または遺族が負担するものとする。ただし保険金請求の事由が、業務上災害による場合の手続きに要する費用は、会社が負担するものとする。

会社は、保険金請求のために本人またはその遺族に対して診断書の提出及びその他必要な協力を求めることができる。なお、診断書作成料は会社にて負担するものとする。

(7)規程外の取り扱い

規程に含まれないケースへの対応について、一文入れておくとよいでしょう。

<例文>

この規程に定めのない事項については、●●生命保険会社との間で締結する●●保険約款に基づくものとする。

(8)退職時の扱い

被保険者である役員や従業員が、退職した場合の契約解除や解約返戻金などの取り扱いを記載しておきましょう。

<例文>

役員・従業員が死亡以外の事由により退職した場合には、速やかに契約を解除し、解約返戻金に関しては、一旦会社が受け取り、その後退職金規程等に従い、所定金額を支払うものとする。

また、役員または従業員の希望により、保険契約の契約者を変更することをもって退職金の支給に代えることもできる。

(9)制度の改廃

制度を変更する場合に必要な手続きやルールを記載します。

<例文>

合理的な手段がある場合には、会社判断として制度を変更または廃止することができる。

またその場合は、相当な期間前に役員および従業員に対して周知するものとする。

(10)施行日

いつから福利厚生規程が有効になるのかを記載します。

<例文>

本規定は、令和○○年○月○日より施行

福利厚生規程の作成後にやらなければならないこと

福利厚生規程の作成後に、運用開始までにやっておかなければならないことを3点ご紹介します。

運用マニュアルを作成する

担当部門や経理部門のための運用マニュアルを作成し、社内で共有が必要なものは福利厚生規程と同じように保管しておきましょう。

申請者が記入する用紙のフォーマットを作成し、申請方法から受付担当部署で処理されるまでの流れを、誰でも閲覧できるようにしておく必要があります。

福利厚生規程に変更があった場合、これらの運用マニュアルの見直しを一緒におこなうのを忘れないよう注意してください。

従業員への周知

福利厚生規程の作成が完了したら、全社員に社内メールで通達を送ります。

メールを確認できない社員のために、掲示板や社内報を使ったお知らせを併用することも良いでしょう。

福利厚生はそもそも、従業員とその家族の生活の安定と向上をはかるためのものですが、従業員に利用されなければ制度が形骸化してしまう恐れがあります。

必要なときに利用してもらえなければ、経費を無駄にすることになります。

法人保険の場合、万が一のことが起こった時に使われるものなので頻繁に利用されることはないかもしれませんが、周知はしっかりおこないましょう。

従業員と賃金控除の協定を結ぶ

住民税や健康保険料のように法律で定められた名目以外は、根拠なく従業員の賃金から控除することができません。

そのため、もし保険料を従業員の賃金から控除する場合は賃金控除の労使協定を結び、協定書を作成するよう、労働基準法により義務づけられています。

福利厚生規程を設けただけでは賃金控除の根拠とは認められず、協定書に賃金控除の名目や理由を記載しておくことが必要です。

もし、労働基準監督署の監査で協定を結んでいないことが発覚した場合、是正勧告を受けることがありますので注意してください。

まとめ

法人保険を福利厚生に活用するために、福利厚生規程が必要な理由と作り方、そして作成後にやらなければならないことをご紹介してきました。

福利厚生規程の作成は、さほど難しい作業ではありません。

法人保険に関する福利厚生規程を作成する際に重要なことは、お金の権利関係をはっきりさせておくことです。

せっかく企業で働いてくれる人たちのためを思って制度を導入しているのに、トラブルになってしまったら悲しいですよね。

そうならないためにも、法人保険を福利厚生に活用する際には必ず福利厚生規程を用意しておきましょう。