法人保険の30万円特例とは?適用条件や活用法をわかりやすく解説
2019年に法人保険に対する損金計上のルールについて大きな改正がありました。
かんたんにお伝えすると、法人保険は最高解約返戻率によって保険料の損金計上の割合を定めるというものです。返戻率が高いほど損金に計上できる割合が少なくなってしまいます。
それによって、解約返戻率が高く全額損金計上できるといった法人保険はなくなり、いわゆる節税商品として人気を集めていた全額損金定期保険は姿を消しました。
とはいえ、法人保険に加入を考えている経営者であれば、できるだけ保険料を損金計上したいと考えてしまうものです。
そこで今回は、そんなお悩みを抱えている経営者に法人保険の30万円特例をご紹介します。
法人保険の30万円特例とはどのようなものなのか。
法人保険の30万円特例でどんなことができるのか。
経営者の保障として保険を検討している人や、役員・従業員の福利厚生として保険の活用を検討している人には特におすすめです。
目次
法人保険の30万円特例とは?
法人保険の30万円特例とは、被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であれば、一定の条件を満たすことで保険料を全額損金として計上できる特例のことです。
詳しくは以下の法人税基本通達に記載されています。
- 法人税基本通達9-3-5
- 法人税基本通達9-3-5の2
国税庁HP
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
ただし、保険はあくまでも被保険者に万が一のことがあった場合の保障を目的としたものです。30万円全額が損金として計上できるからといって、節税が目的になってしまわないように注意しましょう。
法人保険の30万円特例が適用される条件は?
では、法人保険の30万円特例が適用されるにはどのような条件が必要なのでしょうか。
ここからは法人税基本通達をもとに詳しく解説していきます。
契約者が法人で被保険者が役員・従業員
法人税基本通達9-3-5、法人税基本通達9-3-5の2ともに下記の記載があります。
法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする
国税庁
これはかんたんに言うと、契約者が法人で、被保険者が役員または従業員ということになります。そもそも契約者が法人となる保険を法人保険と呼んでいるため、当然といえば当然かもしれません。
被保険者についても、法人保険の多くは役員・従業員の不測の事態に備えるためのものなので普通のことかと思います。
保険金・給付金の受取人が法人
次に保険金や給付金の受取人についてですが、法人税基本通達9-3-5に以下の記載があります。
(1) 保険金又は給付金の受取人が当該法人である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。
国税庁
これは、保険金または給付金の受取人が法人であれば損金算入できるということです。
また、(2)として以下の記載が続きます。
(2) 保険金又は給付金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。
国税庁
さらに、法人税基本通達9-3-5の2でも以下の通り同じような記載があります。
6 保険金又は給付金の受取人が被保険者又はその遺族である場合であって、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としているときには、本文の取扱いの適用はなく、9-3-5の(2)の例により、その支払った保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与となる。
国税庁
これは、保険金または給付金の受取人を特定の被保険者や遺族に限定した場合は、損金では計上できず、給与として扱われてしまうということになります。
まとめると、保険金または給付金の受取人が法人であれば損金算入ができますが、特定の役員・従業員またはその遺族に限定した場合は損金ではなく給与になってしまうということです。
そのため、法人保険の30万円特例を適用するには、保険金や給付金の受取人は法人にする方がいいでしょう。
解約返戻金のない短期払いの定期保険または第三分野保険
続いて法人保険の30万円特例が適用される保険の種類を見ていきましょう。
法人税基本通達9-3-5に下記の記載があります。
2 (1)及び(2)前段の取扱いについては、法人が、保険期間を通じて解約返戻金相当額のない定期保険又は第三分野保険(ごく少額の払戻金のある契約を含み、保険料の払込期間が保険期間より短いものに限る。以下9-3-5において「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」という。)に加入した場合において、当該事業年度に支払った保険料の額(一の被保険者につき2以上の解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険に加入している場合にはそれぞれについて支払った保険料の額の合計額)が30万円以下であるものについて、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときには、これを認める。
国税庁
これが30万円特例の対象となる保険を表しています。
これは、解約返戻金相当額のない短期払※1の定期保険又は第三分野保険※2が30万円以下であるものは損金に計上できるということです。
ただし、詳しくは後述しますが、1人の被保険者が複数の保険に加入している場合には合計額となるので注意が必要になります。
※1 短期払:保険期間よりも短い期間で保険料を払い終えること。
※2 第三分野保険:医療保険、がん保険、傷害保険などの生命保険(第一分野)と損害保険(第二分野)の中間に位置する保険のこと。
保険期間3年以上の定期保険または第三分野保険で最高解約返戻率が50%超〜70%以下
さらに、法人税基本通達9-3-5の2にも以下の記載があります。
保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険(以下9-3-5の2において「定期保険等」という。)で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して、その保険料を支払った場合には、当期分支払保険料の額については、次表に定める区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。ただし、これらの保険のうち、最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(一の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計額)が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、9-3-5の例によるものとする。
国税庁
つまり、保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で最高解約返戻率が50%超〜70%以下、かつ年換算保険料相当額※3が30万円以下の保険についても、全額損金計上が可能となるということです。
こちらも1人の被保険者が複数の保険に加入している場合には合計額となります。
※3 年換算保険料相当額とは、保険料の総額を保険期間の年数で割り算した金額のこと。
法人保険の加入を検討される場合はプロに相談しよう
国税庁HPに記載されている法人税基本通達は正直理解が難しく、人によっては解釈がわかれることもあるかもしれません。また、今後さらに法改正が行われる可能性もあります。
いずれにしても法人保険の加入を検討される場合は、30万円特例を利用するしないに関わらず、法人保険のプロに相談するのがおすすめです。
30万円特例を利用した法人保険2つの活用法
法人保険の30万円特例ですが、どういった活用法が考えられるでしょうか。
節税も大事ですが、本当に大事なのは保険の目的である保障です。
ここからは法人保険の30万円特例の主な活用法を2つご紹介します。
経営者の保障として活用する
まずは経営者の不測の事態に備えての保障です。
経営者に万が一のことがあると、企業のダメージは計り知れないものがあります。
経営者の不測の事態に備えるというのは、法人保険の活用方法の最たるものです。
たとえば、医療保険、がん保険などの第三分野保険に終身保障、10年短期払いで加入するといったものです。
保険料の払い込み期間中は病気やケガによる長期離脱に備えることができます。
払い込みが終わったあとは、退職金と一緒に保険の現物支給をする、もしくは個人が買い取ることも可能です。そうすることで、勇退後も一生涯の保障を得ることができます。
従業員の福利厚生として活用する
次は従業員に対しての福利厚生としての活用法です。
たとえば、解約返戻率50%超〜70%以下の定期保険に被保険者を従業員として加入します。
そうすることで、従業員の万が一の保障としても備えることができますし、退職金積み立ても賄うことができます。
解約返戻金や死亡保険金は法人受け取りとなるので、一部は遺族に、一部は会社の運転資金に充てるといった使い方になるでしょう。
また、早期退職といった退職金規程に沿った退職でなければ、解約返戻金は全額会社への運転資金に活用することもできます。
法人保険の30万円特例の注意点は?
節税ばかり気にしてしまって結果的に損をしてしまうなんてことは避けなければなりません。ここからは法人保険の30万円特例の注意点を解説していきます。
実効税率30%超でないとメリットがない
法人税の実効税率が30%を超えないと節税のメリットがありません。
実効税率とは、法人の実質的な所得税負担率のことで、事業税の損金算入の影響を考慮して再計算したものです。
仮に従業員10人が30万円特例適用の保険に加入した場合、年間300万円の損金になりますが、法人税率が低いと節税のメリットはわずかです。
実効税率の計算については税理士のような専門家に任せましょう。
福利厚生の場合は規程が必要になる
従業員の福利厚生として活用する場合は、退職金制度や弔慰金制度などの福利厚生規程が必要になります。
法人保険の30万円特例を受ける場合、基本的に保険金や給付金の受取人は法人です。
法人が保険金を受け取り、その後役員や従業員などの被保険者に渡すことになります。
そこで制度がないと、遺族とトラブルになる可能性もあります。
そうならないためにも、従業員の福利厚生として法人保険を活用する場合は福利厚生規程を作成しておきましょう。
また、福利厚生規程がないと、福利厚生で行っていることを証明できず、税務調査などで損金として計上できなくなる可能性もあります。
他社契約の合計で30万円以内にすること
先述していますが、ひとりの被保険者が複数の保険に加入している場合は保険料が合算されるので注意が必要です。
法人税基本通達9-3-5には、以下の記載があります。
当該事業年度に支払った保険料の額(一の被保険者につき2以上の解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険に加入している場合にはそれぞれについて支払った保険料の額の合計額)が30万円以下であるもの
国税庁
さらに法人税基本通達9-3-5の2にも、同様の記載があります。
年換算保険料相当額(一の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計額)が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、9-3-5の例によるものとする。
国税庁
ひとつの保険が30万円以内でも他の保険に加入していれば合算されてしまいます。
たとえば、同じ被保険者が年間20万円のがん保険と年間20万円の介護保険に加入した場合、保険料の支払いは合算で年間40万円となるので30万円特例の範囲外となります。
まとめ
ここまで法人保険の30万円特例についてお伝えしてきました。
いかがだったでしょうか。
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であり、かつ以下の条件を満たす保険であれば全額損金として計上することができます。
- 解約返戻金のない短期払いの定期保険または第三分野保険
- 保険期間3年以上の定期保険または第三分野保険で最高解約返戻率が50%超〜70%以下
ただ、繰り返しになりますが、保険はあくまでも被保険者に万が一のことがあった場合の保障を目的としたものです。
30万円が損金として使えるからといって、手薄な保障になってしまっては意味がありません。
経営者の保障として保険を検討している場合や、役員・従業員の福利厚生として保険の活用を検討している場合であれば、30万円特例を利用することで、節税効果をあげながら保障を受けることができるのでおすすめです。
いずれにしても、法人保険の加入を検討しているのでしたらプロに相談しましょう。