法人保険の選び方とは?選ぶときの注意点も紹介

一般的に保険は、リスクに備えて必要な保障が得られるものに加入しますが、法人保険には、リスクに備える事業保障以外の目的で保険に加入するケースがあります。

しかし法人保険には、数百種類の商品があるといわれており仕組みも複雑で、自社の目的に合った最適な保険を選ぶには専門的な知識が必要になります。

そこで今回は、法人保険に加入する目的に触れつつ、目的に合った法人保険の選び方の簡単なポイントを紹介します。

実際に法人保険を選ぶときは、保険のプロに相談したほうがよいですが、プロに相談する前にある程度の知識を得ておきたい事業者の方におすすめの記事になっています。

目次

法人保険に加入する目的

法人保険に加入する目的によって、保険の選び方は変わります。どのような目的で法人保険に加入するのか、おさえておきましょう。

事業保障

事業保障とは、経営者に何かあったときに、事業を継続させるために必要な資金を準備しておくことです。

特にオーナー企業やベンチャー企業では、経営者個人の信用によって取引や銀行からの借入ができるなど大きく影響していることがあります。

そのため経営者がいなくなってしまうと、事業の信用が低下してしまうことも考えられ、取引もこれまでどおりに進むとは限りません。

事業の信用低下の懸念から、銀行から借入金の返済を求められることもあります。

生命保険などでは、事業の運転資金や借入金の返済、人件費の支払いなどに当てられるよう、経営者に何かあったときの資金確保に役立てることができます。

事業承継

事業承継とは後継者に事業を引き継ぐことであり、引き継ぎは計画的に準備をする必要があります。なぜなら事業の引き継ぎには、相続税の支払いや自社株を買うなど、多額の資金が必要になるからです。

主に、2代目企業などの中小企業において事業承継はなかなか難しい問題であり、金銭的な負担が大きいため法人保険を利用するケースが見られます。

法人保険の利用で、相続時に自社株の評価額を減らし税金を下げることや、解約返戻金などを相続税の納税にあてることもできます。

福利厚生

従業員の福利厚生を目的に法人保険に加入することもあり、従業員の生産性やモチベーションの向上につなげることができます。

また、役員や従業員の退職金を積み立てるために活用したり、がん保険や医療保険で弔慰金やお見舞い金を用意したりも可能です。

ただし、現金より流動性が低いので有事に迅速に対応できにくい、などのデメリットがあります。

退職金準備

経営者や役員の退職金は一般的に高額になるため、支払うときに会社の財政を圧迫しないよう、計画的に準備をする目的で法人保険に加入できます。

法人保険には貯蓄性がある商品も多く、解約返戻率のピークが来る時期が商品によって異なります。退職時期と解約返戻率のピークの時期が重なるように法人保険を選ぶとよいでしょう。

法人税対策

法人税は事業利益が上がるほど高くなります。節税対策として自動車や不動産を購入する人もいますが、現金が減るだけで節税効果はあまり期待できません。

そこで解約返戻率の高い法人保険に加入し、支払いを損金(経費)で計上すれば節税対策になります。

しかし、2019年に税制改正がおこなわれ、貯蓄性のある解約返戻率の高い保険は、契約から一定の期間は損金で計上できる割合が小さくなりました。

また、資産として計上しなければならない期間があるなど、複雑化しています。

解約までの期間によっても節税効果が変わるので、法人税対策で契約を検討しているなら、税務処理の知識を持っている人に相談しましょう。

賠償リスク対策

賠償リスクとは、事業活動によって他人にけがを負わせたり、他人の財産を損壊してしまったりしたときに損害賠償責任が発生するリスクです。

特に相手を死亡させてしまった場合などに、多額の賠償金の支払い義務が生じると事業がストップしてしまうことが考えられます。

このようなアクシデントやトラブルは、損害保険によってカバーされるものですが、業界によって必要な補償は異なるため非常に多くの種類があります。

6タイプの法人保険の選び方ポイント

法人保険を選ぶには、事業が抱えるリスクや必要な保障によって見るべきポイントが変わります。

保障内容はもちろん、特に生命保険で解約返戻金がある保険商品を選ぶときには「解約返戻率」を考慮に入れておきましょう。

解約返戻率は、払い込んだ金額がどのくらいが戻って来る見込みがあるのかを予測する数字です。

また、よく聞くことの多い「特約」とは、主契約の保障内容をさらに事業に合ったものにするために追加で付ける「オプション」のことになります。

これらを踏まえて、各保険の選び方を見ていきましょう。

生命保険の選び方

①加入の目的を決める

法人が加入する生命保険の主な目的は事業保障ですが、加えて事業承継や退職金準備を目的にも加入できます。

事業保障だけを目的にするなら、保険料が低く抑えられる「全損(掛け捨て)定期保険」を検討してもよいかもしれません。

事業承継や退職金準備を目的にするなら、解約返戻率の高い「長期平準定期保険」や「逓増(ていぞう)定期保険」は、貯蓄性があるので検討がおすすめです。

②必要な保障額を設定する

生命保険の保障内容には、死亡や高度障害状態になったときに受け取れる保険金があります。事業規模によって必要な保障額は違うので、いくらの準備が必要かを先に考えないと選ぶのは難しいでしょう。

必要な補償額を考えるときには、以下の計算式を目安にしてみてください。

※実効税率を34%と想定しています。

必要保障額=(短期借入金+買掛金+支払手形)× 1.5+(人件費や家賃などの固定費)× 必要月数

③保険期間を決める

事業承継や退職金準備を目的に加入する場合で、現経営者の勇退が決まっているならばその時期に解約返戻率のピークがくるように加入するとよいでしょう。

逓増定期保険と長期平準定期保険のピーク時の単純返戻率は高いですが、逓増定期保険はピークまでが短期間、長期平準定期保険はピークまで長期間の違いがあります。

④特約を決める

保険会社の用意するプランにもよりますが、生命保険の特約には「災害割増特約」や「リビング・ニーズ特約」などがあります。

災害割増特約は、被保険者の死亡や高度障害状態になったときに、割り増しして保険金を受け取れる特約です。

リビング・ニーズ特約は、余命6ヵ月以内と判断された場合、亡くなったのちに支払われる死亡保険金の一部または全額を生前に受け取れます。

以下は各種生命保険の比較表で、一般的な傾向として参考にしてください。

保険会社によりプラン設定は異なるため、すべてに当てはまるものではありません。

長期平準定期保険逓増(ていぞう)定期保険全損(掛け捨て)定期保険養老保険
保障内容死亡時
高度障害状態
死亡時
高度障害状態
死亡時
高度障害状態
死亡時
高度障害状態
満期
保険期間90代後半まで設定可能プランごとに異なる80~90代で満了になるプランごとに異なる
ピーク時の単純返戻率(目安)70~90%台後半とプラン差はあるものの高め90%以上のものが多く高め低いまたは無し80%~90%後半と高め
特約など災害割増特約、など災害割増特約、など指定代理請求権、などがん特約
リビング・ニーズ特約
災害死亡特約、など

がん保険・医療保険の選び方

①加入の目的を決める

経営者や役員ががん保険または医療保険を選ぶなら、3大疾病(がん、心疾患、脳血管疾患)のリスクに備えるなど医療保障の内容がしっかりしているものを選びましょう。

最近では死亡や入院、手術、通院にかかる費用を保障するもののほかに、がんと診断されたときに給付金が出るプランもあります。

退職金の積立にしたいと考えるなら、解約返戻金があるものも選択肢になります。

ただし、解約返戻率だけで見ると、長期平準定期保険や逓増定期保険のほうが高くなるので注意が必要です。

従業員の福利厚生を目的にするなら、保険料が低くおさえられる定期保険の加入が多いです。

福利厚生として加入する場合は、すべての従業員を加入対象にしなければならず、さらに社内で福利厚生規程を定めておく必要があります。

②保険期間を決める

年齢が上がるにつれ病気のリスクは高く、日本人の平均寿命も伸びているため終身保険も人気です。

法人で終身保険を契約し、節税をしながら保険料の払い込み満了まで保険料を負担したのち、払い込み満了後に法人から個人に名義を変更をすると、個人は保険料を負担なく一生涯のがん保障または医療保障を得られます。

③特約を決める

がんの治療では、公的医療保険の対象外になる先進医療による治療をおこなうことがあり、その場合の治療費は全額自己負担で高額です。

主契約に先進医療を受ける補償が含まれていない場合は、特約で備えることができます。

また、女性に特有のがんや病気になった場合に、手厚い保障をする特約もあります。

以下の表はがん保険と医療保険の一般的な傾向として参考にしてください。

保険会社によりプラン設定は異なるため、すべてに当てはまるものではありません。

がん保険医療保険
保障内容がんによる入院・手術・通院
がんと診断されたとき
がんによる死亡時
がん以外による死亡時
入院・手術時
放射線治療時
保険期間定期または終身定期または終身
単純返戻率(目安)プラン差があり、返戻率が高いものも解約返戻金がないものもあるプラン差があり、返戻率が高いものも解約返戻金がないものもある
特約女性がん特約
抗がん剤・ホルモン剤治療特約
がん先進医療特約
指定代理請求特約、など
入院一時金特約
総合先進医療特約
女性疾病入院特約
リビング・ニーズ特約、など

労災上乗せ保険の選び方

①目的を決める

労災上乗せ保険には2つの目的があります。

1つめは、従業員が業務上けがをしたり事故にあった場合に、政府労災保険に上乗せして補償する目的です。

2つめは、従業員から訴訟を起こされた場合などに発生する、損害賠償を補償する目的です。過労などによるうつ病の発症や自殺も、近年では労災と認められるようになってきており、企業の損害賠償責任が問われることがあります。

政府労災ではカバーしきれない多額の損害賠償が発生すると、中小企業などは事業がストップしかねないため労災上乗せ保険で備えることができます。

②保険の種類を選ぶ

労災上乗せ保険には「労働災害総合保険(法定外補償保険+使用者賠償責任保険)」、「業務災害補償保険」があります。

それぞれ、どちらも政府労災保険に上乗せして補償ができる保険です。

労働災害総合保険は、政府の労災保険の支給決定が補償の条件になっています。

業務災害補償保険は、政府の労災保険の支給決定がなくても保険金を受け取れるところが、大きく違います。

③保険金額を設定する

死亡保険金と後遺障害保険金は、労災上乗せ保険では必ず設定しなければならない補償です。以下の項目の保険金額を設定します。

  • 死亡保険金
  • 後遺障害保険金
  • (日額)入院給付金
  • (日額)通院給付金

④特約を選ぶ

さまざまな特約があるので、保険のプロに相談し選びましょう。

⑤注意点

従業員以外に役員や派遣社員、下請負人などを補償の対象にする場合は、補償対象に含める必要があります。

保険料率は業種によって変わり、労災リスクが高い業種ほど保険料は高くなります。

また、賠償責任保険など他の保険契約の内容と、労災上乗せ保険の補償内容が重複しないように注意してください。

以下の表は労災上乗せ保険の一般的な傾向として参考にしてください。保険会社によりプラン設定は異なるため、すべてに当てはまるものではありません。

  労働災害総合保険 業務災害補償保険
法定外補償保険 使用者賠償責任保険
補償内容 死亡時
後遺障害時
入院時・通院時
休業時、など
損害賠償
争訟費用
求償権保全等費用
協力費用、など
死亡時
後遺障害時
入院・手術・通院時
休業時、など
保険期間 1年間 1年間 1年間
特約 通勤災害担保特約
退職者加算特約
下請負人担保特約
海外危険担保特約
天災危険担保特約、など
下請負人担保特約
海外危険担保特約
天災危険担保特約、など
使用者賠償責任補償
フルタイム補償特約
雇用慣行賠償責任補償
法律相談費用補償特約
メンタルヘルス対策費用補償特約、など

自動車保険の選び方

①所有台数によって加入できる保険が違う

法人向けの自動車保険には、所有する車の台数が9台以下の「ノンフリート契約」と10台以上の「フリート契約」があり、保険料を決定する仕組みが違います。

②車両保険を付けるか決める

車両保険を付けると保険料が高くなるので、付けるのをためらわれる方もいるでしょう。しかし、近年では大雨や台風による水災で、車が流されてしまう事例も多く見られます。

とりわけ貨物宅配や介護などの訪問サービス、デリバリーサービスなど、車がなければ事業運営に支障が出る事業の場合は、車両保険があれば有事の備えにできるので検討してみてはいかがでしょうか。

③特約を選ぶ

いわゆる「もらい事故」でこちらに100%過失がない場合は、こちらの保険会社は事故相手と示談交渉ができません。

そのため、もらい事故で相手に損害賠償請求をおこなうために生じる弁護士費用や、法律相談に備える「弁護士費用特約」があります。

他にも、事故を起こしたときの緊急自動通報サービスがついた「ドライブレコーダーによる事故発生の通知等に関する特約」などで、事故を起こしたときに対応をサポートしてくれる特約などもあります。

④注意点

法人契約では、人身傷害保険や搭乗者傷害保険は、業務災害保険や労災総合保険などの補償と重複する可能性があるので、補償内容に注意してください。

以下の表は自動車保険の一般的な傾向として参考にしてください。

保険会社によりプラン設定は異なるため、すべてに当てはまるものではありません。

自動車保険
補償内容対人賠償責任
対物賠償責任
人身傷害保険(搭乗者傷害保険)
車両保険
保険期間基本1年(2年や3年の契約もある)
解約返戻金保険料を年払いで支払っている場合は、残りの保険期間分の何割かが戻る
特約弁護士費用特約
レンタカー費用特約
ドライブレコーダーによる事故発生の通知等に関する特約
ロードアシスタンスサービス、など

火災保険の選び方

①保険の対象を決める

火災保険の補償の対象にできるものは、同じ敷地内にある法人所有の建物や設備(屋内、屋外)、什器備品、商品、製品(屋内、屋外)、車庫、物置、門、塀などいろいろあります。

法人が所有する財産のなかで、補償が必要なものを選びます。

ただし、委託商品や倉庫業者などが、他人が所有する商品や製品などの財産を管理している場合は、火災保険ではなく預り品を補償する「受託物賠償責任保険」の対象になります。

②保険の対象がもし全損壊したら、再調達するのに必要な金額を調べる

保険の対象を再調達するのに必要な金額によって、補償対象物の資産額が決まります。

資産の評価基準額の設定が不適切であった場合、保険金が満額支払われなくなってしまうことがあるので、正確に設定しなければなりません。

費用が別途かかりますが、資産評価の専門会社などに正確に資産査定を依頼してみるのもよいでしょう。

③備えたいリスクを決める

補償対象となる建物の立地によってリスクの大きさは異なります。

たとえば、工場などは河川の近くに建てることが多いですが、川の氾濫による水災のリスクが高くなります。

また、高台に建物があり近くに河川がないなら水災のリスクは低くなるので、補償対象から外すことも可能です。

火災保険は、火災や水災、落雷、風災、雹災、雪災などの自然災害によるもののほかに、破損や衝突、盗難、水漏れなどによる補償に対応してくれます。

④免責金額の設定

免責金額とは法人の資産に損害が起き、再調達する必要に迫られたときに自己負担する金額のことです。

免責金額を高く設定すると保険料は抑えられますが、災害発生時のリスクは高くなります。

高額な損害にだけ備えて、少額損害ならば自費負担でかまわないのであれば、免責金額を高めに設定してもよいでしょう。

⑤保険期間を決める

火災保険の保険契約期間は1~10年の1年単位で、長くなるほど割引率が高くなります。しかし2022年度より、最長期間が5年に短縮される見通しです。

長期で契約の途中で引越しや売却によって解約しても、経過期間に合わせた解約返戻金を受け取れるので、無駄になることはなく安心です。

⑥特約を決める

火災保険では地震・噴火・津波による損害は対象外になるため、地震特約を付けられることがあります。

しかし、法人向けの火災保険では、希望どおりの内容で地震特約が付けられないケースもあるので理解しておきましょう。

以下の表は火災保険の一般的な傾向として参考にしてください。

保険会社によりプラン設定は異なるため、すべてに当てはまるものではありません。

火災保険
補償内容火災、落雷、爆発、風災、水災、雪災などによる損害
盗難による損害
水漏れによる損害
電気的・機械的事故による損害、など
保険期間1~10年の1年単位(2022年度より最長5年に短縮される見通し)
解約返戻金長期契約の場合の経過期間に応じた金額
特約地震保険
施設賠償責任特約
受託物賠償責任特約
借家人賠償責任特約、など

賠償責任保険の選び方

①事業で想定されるリスクをリストアップする

事業遂行により、従業員や第3者にけがを負わせてしまう危険はどのような事業にも起こり得ます。事業を取り巻く環境を整理し、想定される損害賠償や費用のリスクをリストアップしましょう。

  • 施設や設備などに起因する事故などによる損害賠償
  • 業務遂行に起因する事故などによる損害賠償
  • 生産物や工事、作業の結果に起因する事故などによる損害賠償
  • 人格権侵害やハラスメントによる従業員への損害賠償
  • 顧客の情報漏えいやデータ損壊に関する損害賠償
  • 異物混入やリコールなどにより発生した費用
  • 訴訟に関する費用、など

②想定リスクを補償できる賠償責任保険を選ぶ

想定されるリスクによって加入できる保険が異なります。加入できる保険の種類はとても多いので、プロに相談するとよいでしょう。

  • 請負賠償責任保険
  • 生産物賠償責任保険(PL保険)
  • 施設賠償責任保険
  • 個人情報漏洩保険
  • サイバー保険
  • 雇用慣行賠責保険

③注意点

他の保険と補償内容が重複しないように注意しましょう。また、不要な補償が付いているとそれだけ保険料が高くなってしまうので、確認する必要があります。

まとめ

6タイプの法人保険の選び方を紹介しました。法人保険は節税や退職金準備、有事を乗り越えるためなどさまざまなケースで役に立ちます。

しかし、多くの保険のなかから事業にあった最適な法人保険を選ぶには、適切なアドバイスをしてくれる保険のプロに相談するのがよいでしょう。

プロに相談する前の情報収集として、今回の記事を参考にしてみてください。